今回の記事は前回に続き、弊社がこの度取得した「特許」に関する記事です。共同出願者の関根社長にお話しをうかがってきました。
旭梱包株式会社とは
―――御社の事業内容について教えてください
関根社長:基本的には輸出・国内の梱包です。梱包内容は種種雑多ですが、小さいものから大きいものまでさまざまな機械の梱包が主力事業です。その他にも、パレット製造、特注の木箱、輸出入代行を行っています。アジア、北南米、ヨーロッパ、アフリカと、全世界が相手国となります。
―――いつ頃からこの事業を行っているのですか?
関根社長:輸出入の事業は先代から始まり、昭和35年(1960年)ですから、今年で創業62年になります。ちょうど高度経済成長の時期で海外事業が広がった時代で、いろいろな日本製品が海外で取引されるようになり、今の数倍の輸出量がありました。梱包組合に加盟している企業の多くは、昭和20年代後半~30年代前半に創業していますね。
世界共通の「仕様」で、この分野は動いている
―――多くの国を相手にされているわけですが、国によって申請方法や基準などがあるのでしょうか
関根社長:国によってルールが決められています。内容物によっては国際航空運送協会(IATA)の危険物取扱の資格がないと取り扱えないということもあります。「危険物規則書」に梱包方法などが規定されていているので、それに沿って作業を進めていく形になります。
―――では逆に世界共通の決まりごとはあるのでしょうか
関根社長:例えば、使用する梱包材には注意する点があります。今、世界中でいろいろな「モノ」が取引されていますが、その影響の1つが「その国の在来種ではない生物も輸送される」ことです。日本でも「ヒアリ」や「セアカゴケグモ」が注目されましたよね。実際にはコンテナに入り込んで来るわけですが「梱包材内に害虫がいてはいけないのでその処理をしなさい」という規制が、ほとんどの国で採用されています。
それから、どの国でも梱包・輸送する際に注意しているのが、「中身が動かないように梱包すること」です。これは梱包するモノによって工夫の仕方が変わりますから職人技といえますし、世界共通のことではないでしょうか。
物流(梱包)業界は、機械化(自動化)が遅れている業界?
―――梱包の業界の機械化(自動化)はどうですか?
関根社長:そうですね。もともと手作業が多い業界ため機械化が遅れています。この業界最大の機械化といえるのが、40年以上前に開発された「釘打ち機」。作業員が手作業で一つひとつ打っていくのとは全然違いますから、当時としては画期的、革命的だったと思いますが、それ以降の機械化が進んでいない業界です。
<ハンディタイプの「釘打ち機」>
釘打ち機は片手で持てるハンディな機械なのですが、釘の長さによって大きさが異なり結構な重さがあります。これを1日中使うとなるとかなりハードなんですよね。でもそれ以上のモノが無い、そういう業界です。
今回の特許につながる”アイデア”を思いついた経緯
―――今回の特許対象となるアイデアはどのような経緯で思いつかれたのでしょうか
関根社長:梱包は2つの側面があります。1つは容器として木箱を作るということ、もう1つは中身がどう動かないようにするか=製品の固定 ということです。前述の通り、固定に関しては中身がそれぞれ異なるため、どうしても人手でやらなければならない作業であり、ここの機械化は難しいのです。
一方で箱に関しては、JIS規格で標準化できているためプロトコルがありますから、そこを機械化できればと思い至ったのです。もしも機械化できれば、今日入った人でもやり方を教えればベテランや職人と同じように作業ができますし、従来そこにかけていた時間を、人がやらないといけない作業=製品の固定などの重要な作業の方に充てていくことができると考えました。
―――いつ頃から、その構想はありましたか?
関根社長:梱包用の箱を作る作業というのは、大変な重労働なのです。鉄板に這いつくばるような恰好でも作業しますから、腰を傷める者もいて。作業数が増えるとそういう傾向があり、作業員のためにも何とかしたかったのです。第三者の目で見ても、こんな状態では新しい人は来ないよなと思っていましたから。
実は思いとしては10年以上前からありました。実際今回の特許対象に至るまでの間、パレットを作る機械という最初に浮かんだアイデアを、韓国の知り合いに話して試作したこともあったのですが、忙殺されて頓挫していたのです。
特許までの道のりは、長く険しい
―――関根社長の思いからどのようにして具体化していったのでしょうか
関根社長:思いはありましたが、じゃあどうやって具現化するのか というのは正直分からなかったのです。ただこれは本当にたまたまなのですが、付き合いのある銀行さんとの雑談の中で、機械化できたらいいけどどうしていいか分からないというような話をしていたんですね。こちらはあくまで雑談のつもりでした。
そうしたら、銀行さんの取引先の中で「一緒に考えてくれる人がいるかもしれない」という話になって。そこからさらに岡部さんを紹介してもらい、どのような形で具体化するかを相談しました。2019年のことです。
―――特許対象となったのはどういった部分でしょうか
関根社長:そうですね、先の釘打ち機ありますよね。ただ打つだけならああいう機械できます。梱包の箱を作る時には「クリンチ」と言って釘先を0.3cm以上折り曲げないとならないと決められています。折り曲げることで釘の保持力が増すからなのですが、実際には斜めに釘を打つことで実現しています。この作業は鉄板の上で行いますから、鉄板を滑ることで釘の先が曲がるのです。これを機械でやるとなると、木の材料や厚み、箱の種類等によって釘の打ち方が変わってくるので、どの角度で釘を打つとどうなるのかを、さまざまなパターンでテストしなければいけません。例えば材料の種類だけを見ても、ポプラ、スギ、12mm厚のラワン合板、8.5mm厚の合板、8.5mm厚の合板にLVLという合板を重ねて厚みを増した積層合板など、いくつもの種類があります。
<テストに使用した木材たち>
さまざまな条件の下でも動作するかどうか、時間をかけてすべてテストしてきました。今回はそこが、特許に繋がりました。
今回の”特許”は、業界の新しい風になるか
―――特許取得後、今後はどうしていきたいとお考えですか
関根社長:梱包事業のうち製函の部分は、機械化可能な部分だと思っています。今回特許を取得したのはそのコアとなる部分ですから、実際の木製パネルを作る機械を作り上げて初めて、意味を成します。そして製品を作り上げることで、対外的な信用やさらに高い評価も得られますから、なんとか製品化したいと思っています。
<新しい「釘打ち機」開発用の試験機>
さらに、製品ができあがって自社で試しに使ってみて実用に耐えるレベルになったら、他社への販売まで進めたいと考えています。同業者であればどこも同じ悩みを抱えているので、そういう製品があれば使いたいと思っていただけるのではないかと思います。
製品開発を進めていけば、制御や構造で新たなアイデアが特許に該当することも出てくるだろうと思います。この1回で終わりではなく、さまざまな段階で特許を取っていくことで、誰にも太刀打ちできないモノになるでしょう。
現時点では国内だけですが、いずれ世界中の人が欲しい製品になる可能性はあると思っています。この先海外で製品を使ってみたいということがあれば知財の保護は必須ですから、国際的な特許も必要になるかもしれません。まだまだ「やってみたいこと」はたくさんありますよ(笑)。
お忙しい中、快く取材にお応えいただいた関根社長、ありがとうございました。
弊社の社長もそうですが、「こんなことをしたい!」という夢をいつまでも持ち続けるって、すごい原動力になることが良く分かりました。
「釘打ち機」も、まだまだ終わりではありません。もっと先の未来へ向けて、これからもよろしくお願いします!